2009年1月3日

ぶどう収穫要員用バウチャー 後日談 4

前回に続き、過去記事「ぶどう収穫要員リクルート用バウチャー?」の、極めてイタリア的な後日談の第4回目、最終回です。

第1回目
第2回目
第3回目


*

かつて友人や親戚、旅行者を大勢かき集めてにぎやかに収穫を行うのが常だったわけにはもちろん、収穫というものが果皮に疵のない健やかなぶどうの実を、まだ薄暗い早朝から5時間程度の最も涼しい時間帯に手早くカンティーナに運び込むことを必要とする、大変デリケートな作業であるという背景があった。

昔からずっと収穫期には元気な年金生活者が数多く活躍して来たが、何しろ年寄りなのだから、毎年手伝いの常連でも年によっては身体のどこかに故障があったりして手伝えないこともある。
つまり、毎年手近な労働力が必要なだけ確保できるとは限らないからこそ、年金生活者以外の人々も呼ぶことで大体うまくいっていたわけだ。
友人たちや旅行者に手伝ってもらうことが違反行為になるこの新システムで我々が困る理由の中でも、実務に直接関わる特に大きなひとつがそこにある。

現時点ではどうすれば旅行者や友人たちに法的に問題なく手伝ってもらうことができるかどうか、正確にはまだはっきりわからない。
せめて友人たちにくらいは収穫に参加してもらうことが可能になるよう、彼らと生産者の双方を事故から守る簡易保険の付いた正規手続きの一年でも早い整備が望まれるところだ。


それにつけても:
かつて収穫というものは常に、まる一年の間の日々の重労働や、ぶどうの生育に関する心配、希望の集大成としての詩的で陽気な祭であり続けて来た。
それはこのイベントが、作業を共にする人たちと一緒に祝い、共有するべきもの(あるいは、少なくとも生産者側にとってはそう思われるもの)だからだ。

ほんの最近(2007年度)まではまだ、収穫とはまた畑の隣人同士の間での相互扶助のすばらしい一例であり、友人や親戚とひとときを過ごすいい口実だった。
それが我々の文化の中での収穫というもののあり方だった。
本来そういった価値というものはより向上させるべきものであるはずなのに、2008年度を境にその価値は失われてしまったのではないか?
そんな風に我々は怖れている。

先の収穫時ほど退屈な収穫はこれまでにはなかった。
作業中に歌う者もなく、議論もなく、ただ時々思い出したようにちらほらと人の噂をするくらいなものだった。
唯一の団らんのひとときは、我々手製の温かいパスタとケータリング会社に配送を頼んだたっぷりの料理を出した食事時間中だけだった。


そして失われたものはそれだけではない。
収穫に参加してくれる友人や旅行者というのは、実際には単なる労働力ではなかったのだ。

彼らはみんな、収穫を終えてそれぞれの家に戻った後に自分の経験を人に語り伝えてくれるメッセンジャーでもあったのであり、彼らのそういった口コミ行為が、地域や生産者、その製品などの全てに付加価値を与えることに繋がっていた。
彼らにとって初めての経験や作業中の自然との触れあいなどについての伝達は、製品に付いたロゴやラベル以上にもっと大切な、その後のさらなる出会いや交流を生むきっかけとなるものだった。

趣味で収穫を手伝いたいワイン好きな地域の人々や旅行者も、生産者側が正式に臨時就労手続きを取らないことにはそれが叶わないというわけだが、生産者側は何も嫌で手続きを拒むわけではない。
そもそも現時点では上述のように、一体どうすればそういった人々を、査察官にとって非の打ちどころのない形で臨時就労者として受け入れることが出来るのか、まだ誰も知らないのだ。

このように、まるで国とお役所が一般人を我々から遠ざけるために八方手を尽くしているかのような現在の状況では、外国からのぶどう収穫体験ツアーなど催行のしようがないのだから、もう我々にはこれまでのように「海外の消費者がなかなかイタリアワインの世界に親しもうとしてくれない」などと不平を言うことすら出来なくなる。

イタリアのお役所仕事というのは国家経済の管理や助けになるどころか、もはやただの邪魔でしかない自らのレゾン・デートル(存在意義)を必死に守るだけのものになり下がっているかのようだ。


そういったわけで、「生産者、それも中小・零細規模で職人的な仕事をしている生産者にとっては、この収穫時の臨時就労者の調達にまつわる新システムは、現時点ではかくも苦々しく救いのないものとなっている」といった感想を述べてみた。
このシステムの概要が現状に留まる限り、収穫時の苦労は以前よりもずっと多いのだ。

そういった点で何ら改善がなされないうちは、この件に関する将来への希望などというものがあるとすれば、それは精々、バウチャー1枚当たり2ユーロ50セントにも上る税収が、せめてアメリカのサブプライム問題に端を発する現在の金融危機の緩和に役立つことへの望みくらいなものではないだろうか。

*


・・・ということで、新法が発効してから初回のヴェンデンミアがどうだったかについての一通りのレポートが前回までで済んだ後、最終回の今回は、その生産者の方が持った感想のまとめを紹介してみました。

今のところ、こんな新法が出来たのはイタリアだけであると思われますが、ここはEU圏であり、原則的に法は圏内どこでもだいたい同じでなければならないはずですから、これから欧州他国でその辺がどうなっていくのかも気になります。

ただでさえ法制が一転二転することも多いイタリアでのことですから、欧州共同体政府の上層の人事や方針によっては将来の改正や廃止もあり得ないではありませんが、さて、一体どうなることでしょう?

また気を付けておいて、何か変わったことがあったら書いてみたいと思います。







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